コラム

性別による色分けは本当に必要?デザインするときに考えたい色とジェンダーのこと

risa

駅や電車の中、街中やメディアでは日々さまざまなデザインや広告物を目にします。

こうした日常生活で目に触れるデザインの中に、ありふれているだけに見落としてしまいがちな、無意識のジェンダーに関するバイアスが含まれていることがあります。

たとえば、イラストサイトでダウンロードできる素材のなかで、ビジネスマン風のイラストは男性風だったり、小さな赤ちゃんを抱っこしているイラストでは女性が主だったり。

また「色」に注目すると、男性や男の子と思われる人物の服装は青や寒色系、女性や女の子と思われる人物の服装は赤やピンクで表現されることが多いのではないでしょうか。

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今回は日本でよく見かけるトイレのピクトグラムの赤と青の性別による色分けを例に、色とジェンダーの関係について考えていきます。

このコラムは、デザインする方だけでなく、企業の広報を担う方、学校や保育などの教育現場ではたらく方など、作ったり発信したり、誰かに教えたりする立場にある方に向けたものです。

まだあまり意識したことがないという方が、無意識のバイアスや固定観念に気がつくきっかけとなり、伝えたり場のコミュニケーションを促進することに役立てば幸いです。

赤は女性、青は男性。デザインで色を性別ごとに分ける意味は

デザインにおける性別による色分けで、日本で多くの人が日常的によく見かけるのが、赤=女性、青=男性と性別ごとに色分けされているピクトグラムではないでしょうか。

たとえばこのピクトグラムが掲げられていたら、あなたはどちらのトイレに入るでしょうか。

(ここで、自分は男性と女性にも区別されない認識なのだけどという声も聞こえてきそうです。次の次の見出しまでお待ちください!)

ではこうだったら…?

すぐにでもトイレに行きたくて駆け込みたい人は、ピクトグラムの形を詳細までじっくりとは見ず、まずは色を頼りにするかもしれませんね。

でも、待ってください。

そもそもなぜ、ピクトグラムで示されている上に、さらに男女で色分けをしなければならないのでしょうか。

そしてなぜ、日本の文化圏で暮らす人々の脳は、この場合、赤は女性、青は男性と認識してしまうようになっているのでしょうか。

本来、色分けしなくても十分伝わるはず。

性別ごとの色分けが社会的差異を生み出している?

人生の早い段階から性別ごとに色分けされがちな日本社会

ここで個人的なエピソードなのですが、思い返してみると、人生の早い段階から、なにかと性別ごとに色分けされることが多かったように思います。

私が小学校に進級したころ(2000年頃)は、ランドセルは女子生徒は赤、男子生徒は黒の2色から選ばなければいけない雰囲気でした。(私は紺色がよかったのですが)

娘が以前通っていた保育園では、工作の際にスモック(服のうえから羽織る作業着のようなもの)を着ていたのですが、やはり女の子はピンク、男の子は青のスモックを着ることに。

ある雑貨店で、子ども向けのグッズ(レインコートや食器、スタイなど)を探したところ、ピンクか青の選択肢しかなく、おそらく女の子にはピンク、男の子には青を選ぶ想定で商品企画されたのだろうなと、好きな雑貨店だったために少しがっかりしたことがありました。

ピンクを選ぶのは「ピンクが好きだから」なのか「女性だから」なのか?

大人になってからもなにかとありました。

ある温泉施設で、選べる貸し出し浴衣の種類が、ピンク、オレンジ、青、黒だったとき。

サイズ展開は全色一緒だったと思います。

女性はピンクを、と書いてあったわけではないのですが、女性の更衣室へ行ってみると、ほとんどの方がピンクの浴衣を着ていたので、本当にピンクがよくて選んだのかな?とふと疑問が湧きました。

「本当に好きな色」よりも、知らず知らずのうちに「ピンクを選ぶのがふつう」と感じるようになることもあるのかな?と思いました。

私は青系や落ち着いたトーンの色が好きなのと、ピンクよりも気分的にしっくりくるので、黒の浴衣を選びました。(更衣室では”一匹だけ黒”の「スイミー」の気分でした。)

社会的に「この性別にはこの色」と想定されたものをそのまま受け取るのではなく、自分自身の認識や心地よさなども大切にしたいと個人的に思っています。

少し話がそれましたが、男女の何が違うかと言えば主に身体的な差異があることくらいなのに、人生の早い段階から社会的に色で差異化される社会はやはり不思議だなと常々感じてきました

性別ごとに色分けすることで、生まなくてもよかった社会的な差異を生んでしまっているように思えるのです。

性別ごとに色で分けるとしたら、それはどのような理由・必要性があってのことかを考えたい

その社会・文化圏でその色に対する共通認識があれば、特定の色で示すことで、大多数の人がすぐに情報を認識できるようになることがメリット。

日本のトイレで男女の色分けが最初に行われたのは、1964年の東京オリンピックの時。グラフィックデザイナーの道吉剛さんによって考えられたものだそうです。参照ページ

ちなみに道吉さんがもともと色への固定観念をもっていたというよりは、たまたま見かけたアメリカ人の子どもたちが、男の子は青、女の子はピンクの洋服を着ていたことから男女の二分法を採用し、それが大衆へ一気に広まったよう。参照ページ

オリンピックのような多言語に対応する必要がある状況では、言語を使わずとも視覚的なわかりやすさを高めるため、ピクトグラムを色分けすることは確かに合理的かもしれません。

オリンピックで採用された際は意図されたものでなかったかもしれませんが、今となっては男女の色分けは少なからず固定化されてしまっている状況だと思います。

近年では、性の多様性が話題に上ることが多く、赤と青の色の二分法に対して「もやもや」を感じる人が増えてきたのではないかと思われます。

色に対する固定観念が存在することは、その二分法にあてはまらないと感じる人、色分けされた色が自分の認識とそぐわないと感じる人もいるという視点も、もしかしたら持っておきたいなと思います。

これらはあくまで個人的な考えなのですが、みなさんはどのように感じるでしょうか。

デザイン面では、社会的固定観念だからと思考停止することなく、「そもそも男女を色で分ける必要があるのか」「分けたとして、それはどのような理由・必要性があってのことか」は都度考えたいですね。

次にご紹介する他の文化圏での色分けされていないピクトグラムをみていだけると、そもそもピクトグラムをわざわざ性別ごとに色分けすることについて、新たな視点をえるきっかけになるかもしれません。

ほかの文化圏のトイレのピクトグラムは性別の色分けが見られない

日本で多く見られる性別による色分けは、他の文化圏では見られるのでしょうか。

まず、ほかの文化圏では必ずしも男女の色分けがされているわけではないよ!という例をご紹介します。

これはフィンランド・ヘルシンキのヴァンター空港の到着ゲート付近のトイレです。

日本でよく見かけるような男女の色分けはなく、ライトブルーの背景に白でトイレのピクトグラムが表示されています。

男女それぞれのトイレにそれぞれ個室の多目的トイレがあり、車椅子やオストメイトの方が利用できるほか、おむつ変えや授乳など、赤ちゃんのケアの用途でも使えるようでした。

ベビールームも同様に、ライトブルーの背景に白のピクトグラムです。

これは日本での話ですが、娘がまだ0歳の頃、外出中にミルクをあげる必要があり、商業ビルの授乳室をよく利用していたのですが、授乳室のピクトグラムや案内板は、なにかとピンクが強調されていた気がします。

日本で使った授乳室の、ほとんどが男性が立ち入れない旨の案内が書いてありました。

夫が娘のおむつをかえたり、粉ミルクをあげる時もあったのですが、男性は入れないことが多かったのです。

ヴェンター空港のトイレのピクトグラムの配色に男女差がないところが、性別に対して何かしらの意味付けがされておらず、日本よりももっとフラットなのかもしれないという印象を抱きました。

これを見たあとに、日本のピクトグラムの男女の色分けや授乳室のピンクを思い返すと、性別を連想させる色をつけていることから、性別による社会的な枠組みは、意図的に作られるものなのかもしれないと思ったりもしました。

色分け以前に男女に分かれてもいないジェンダーフリートイレを発見

それからもうひとつ、そもそもトイレは男女に分かれているものという固定観念をひっくり返すトイレ

こちらはノルウェー・オスロにあるムンク美術館のトイレです。

入り口にはトイレを示すピクトグラムがありますが、日本のように男女の色分けはありません

入り口は向かって左右二手に分かれているのですが、どちらにも男女をあらわすピクトグラムや文言は一切ないんです。

私が左右どちらに入ればよいか迷っていると、同じタイミングで入ろうとしていた女性も「えっ、どっちなの!?」と迷っているようでした。

「どういうことだろう。どっちでもいいのかな?」と私が言うと、

彼女は「わかんない!」と言いながら、向かって右側に入ることを決めたようでした。

私は向かって左側に入ってみました。

左からは、入れ違いで男性と思われる人が出てきたので、あれっもしやと思ったら…

あとから入口にノルウェー語で書いてあったメッセージをGoogle翻訳で調べてみると、ざっくりとこのような意味だったようです。

「左右どっちに入ってもOK、ただし右側には小便器があります」

色分け以前に、そもそも性別ごとに分かれていないトイレがあること驚きつつ、ごくシンプルで理に叶っている分け方だなと思いました。

このトイレを発見したことをきっかけに、デザインをしたり、誰かに何かを伝える際には、「そもそも性別ごとに色を分ける必要は本当にあるのか」「そもそも男女で分ける必要があるのか、それはなぜなのか」と、「そもそも」のところから考える必要性・重要性に気付かされました。

ジェンダーの視点から立ち止まって考えたいこと3つ

今回は色とジェンダーの観点からお話しました。

誰かに何かを伝える立場にある方が、ジェンダーのバイアスを生むことを避けるには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。

デザインなどの制作物を作る方、情報発信をされる方に参考にしていただければと思い、最後にチェックリストを作ってみました。

デザインで色を選ぶとき、ジェンダーの視点から立ち止まって考えたいこと

  1. 性別を区別する際、バイアスを生む色を使用していないか。その色を選んだ理由を相手に説明できるか
  2. イラストを用いる際、典型的な性別役割のバイアスがかかっていないか
    (仕事しているのが男性、家で子どものお世話をしながら見送るのが女性など)

情報を届ける側のちょっとした選択は、受け取った側の「理解してもらえた」「そうそう!」を促すと信じています。

「あまりにありふれていて見落とされがちだけど、結構大切なこと」をすくいとる視点を大切にしていきたいと思います。

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